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10月25日入門コースの4日目が終了しました。内容の速報をお届けします。

 「資料の収集、評価・選別、管理と活用」
  麗澤大学大学院 佐藤政則教授

 デジタル史資料の収集と管理の実際的なお話でした。今回は具体的な史資料を扱う上での基本的な考え方とそのステップの内容で、実務に携わる担当者にとっては良い指針になったのではないかと思います。企業アーカイブの取り組みにはスタンダードはなく、企業の実情や社風に合わせて形作られる、そこには「見栄はいらない、意地が必要」は私にはとても明快で印象的でした。
(記:凸版印刷株式会社 檜垣茂)

 

10月18日入門コースの3日目が終了しました。内容の速報をお届けします。

 入門コース3日目の前半は、記録管理学会会長を前に務められていた、出版文化社アーカイブ研究所の小谷允志所長を講師に迎え、主に現用文書を対象とするレコードマネジメント(記録管理)の現状に関しての概論をお聞きした。2011年に施行された公文書館理法の趣旨も踏まえつつ、現代の企業における記録管理の意義や課題について、事例を交えながらご説明いただいた。

 後半は、渋沢栄一記念財団の松崎裕子氏から、「企業アーカイブズとは」というテーマにズバッと切り込んだお話を伺った。国際アーカイブズ評議会(ICA)でも活躍されているお立場であり、海外企業のアーカイブズに対する取組みもご紹介いただきながら、企業のアーカイブズ担当者(企業アーキビスト)に求められる役割、果たすべき使命について、多面的に解説していただいた。

(文責:大日本印刷株式会社 村田孝文)

 

10月11日入門コースの2日目が終了しました。内容の速報をお届けします。

 明治時代から現代に至る「企業と史資料」について東京大学大学院経済学研究所の武田晴人教授のお話でした。史資料を考える入門編として過去の史資料の見方、取り組み方を考える興味深い講義でした。
 史資料から一企業の歴史の流れを省みるとき、国内外の制度上の変化や社会環境を頭に入れて史資料と向きあうことの重要性が講義のポイントのひとつのように思いました。明治時代から昭和は日本の産業界にとって環境が大きく移り変わった時代です。一企業に捉われた見方でなく、当時の社会情勢や通信環境からその史資料がなぜ作られたか考えることはとても意義深いことであり、そうすることで史資料は意味をなし、説得性のあるものになるのだということではないでしょうか。終戦後GHQの要請で将来各々の企業が何を手がけるのか求められたそうです。おそらく生き残りのために作文もあったのではないかと思いますが、先人たちが生き残りのためにおそらく懸命に努力したことと思います。ぜひ一度いろいろな企業のものを見てみたいものです。
 史資料への向き合い方は、過去資料にだけでなく、現在作られている資料にもあてはまることと考えます。資料はたった一年経つとどのような意味のものかわからなくなることがしばしばです。目まぐるしく変化するIT上で残される資料はなお更のことではないでしょうか。活かす資料として残すことの大切さはアーカイブに携わる人にとって重要な課題なのかもしれません。

(文責:凸版印刷株式会社 檜垣茂)

 

10月4日入門コースの1日目が終了しました。内容の速報をお届けします。


 アーキビスト研修講座のスタートのカリキュラムは安藤正人先生のアーカイブズの総論であった。アーカイブズを情報の資源ととらえ、その資源とは文化資源、社会資源、組織資源という多目的なものであるというお話はとてもわかりやすい。そして、その機能を行政の場合と企業の場合に分けて説明された。さらに、アーカイブズのない国家は考えられないと同様に企業にとってのアーカイブズの必要性を強調された。総論でありながら豊富な事例を示され、様々な想像をしながら学ぶことが出来た。加えて、アーキビストの役割や育成の課題、記録のライフサイクルを通した管理システムなどの各論の入口にも触れられ、時間の足りない2時間50分であった。

(文責:株式会社コスモスインターナショナル 岡田泰吉)

 

「写真資料のデジタル化 ― 銀塩写真の保存と活用事例」   株式会社コスモスインターナショナル 岡田泰吉

1.デジタル化によって考え方の変化が起きている

 写真資料の活用と保存を考えるとき、今年になってから今までにない特別な感想をもつようになった。それはデジタル化との関係です。従来の考え方、デジタル化しても元の写真(銀塩写真:注)は大切なものとしてそれまでと同じように保存していく、が変わり始めたのではないかという危惧です。紙資料の場合の原本は、その質感などを含めてデジタルデータには求められない豊かな情報を持つ、という観点からも大切にされている側面があります。

 写真の場合、今までは、銀塩写真は大切なものという精神的な考え方や、デジタルデータとの再現性の差、真正性、長期保存性などの現実的な考え方が支えになって大切にされてきました。実際には、銀塩写真とデジタルデータの差が表現力という比較ではどんどん縮まっていますし、特にフィルムの場合のビネガーシンドロームによる保存の将来への不安などにより、その支えも危ういものになってきたという危惧です。

 紙資料にしろ写真資料にしろ、従来のように必要に応じてデジタル化していた時代から、すぐには活用の要請がないのに先行してデジタル化する時代へと変わってきています。これが原本保存、銀塩写真保存に対する考え方を変えてしまったと思えてなりません。このことがいいのか悪いのか、時間を経て、銀塩写真の、とりわけ原板といわれるフィルムが希少価値で語られる恐ろしい時代だけは来てほしくないと願うばかりです。

 しかし、この先行してデジタル化するをやらなければ、デジタルの活用が進まないのも事実です。

2.活用の素晴らしい事例

 写真資料は画像単独では利用可能な資料として完結しない、付属情報を確定することが利用に際して不可欠である、と奈良女子大学の島津良子非常勤講師は「劣化する戦後写真」(岩田書院ブックレット)の中で述べられています。(12頁)

 写真を管理する時の実際を考えてみましょう。活用を促進するためには検索用に小さな画像でもいいから、将来の活用が期待される全点をデジタル化する。

 このステップのあと、すぐ次に進んだ事例を紹介します。

 企業ではないのですが、新潟県十日町市古文書ボランティアの事例です。100年の歴史を持つ市内の写真館から約48,000点の写真の寄託を受け、全点をデジタル化し、1点1点の内容情報(時代、場所、状況など)を調査し、資料カードに記録する作業に取り組みました。その調査とは、平成22年10月から十日町市古文書ボランティアを中心に十日町市情報館と博物館が協働して行っているものです。情報館で写真展をくり返し開催し、市民からの情報を集めるという方法です。これにより100年の社会、風俗、文化、産業、教育、自然など、まさに十日町市の歴史が画像で甦りました。副産物として、市民からのさらなる写真の提供希望があるということですし、市民がこうした作業に携わること自体が写真の活用といえるのではないか。かかわった人が皆、これを「地域の宝」にしていく活動と位置づけているそうです。全点がデータベースに登録され、一部は来館者が自由に検索できるようになっていると同時に、将来はWEBでの公開も検討され、さらに全ての銀塩写真の保存対策がきちんと採られているという素晴らしいプロジェクトです。

 その後、いくつかの自治体から写真整理の相談があるたびに、この事例を話します。一様にすごいな、やりたいなという話にはなっても、実現には困難が多く、実行できません。しかし、小さな規模でもいい、この方式を学んで成功する事例が次に続くことを願っています。

 企業に於いても、努力することによって、後付データの収集が何らかの方法で可能ならば、そのままでは使えない多くの写真が生き返ります。トライする価値はあると思います。

(注)支持体(ガラス乾板、フィルム、印画紙など)の上に感光性の乳剤層が塗布され、露光すると乳剤層が光を記録し、現像処理によって画像が形成される(黒白画像の場合)写真方式で、最近ではデジタル写真と対比して使われることが多くなった。

                                                  以上

「資料管理の情報」へのご質問、ご要望は研修部会の専用メールへお寄せください。
kenshu@baa.gr.jp



 

「デジタル画像データの品質について」        株式会社堀内カラー 肥田 康
                          

(1)はじめに
 連日猛暑が続きますが、皆様お元気でお過ごしでしょうか?スーパークールビズで暑さをしのぎ、キンキンに冷えたおいしい生ビールを飲んで何とかこの夏を乗り切りたいものです。
 さて、ご挨拶が遅れましたが、私は竃x内カラー・アーカイブサポートセンターの肥田(ひだ)と申します。今回から不定期になりますが(出来るだけがんばって2〜3ヶ月で更新します)、資料のデジタル化をテーマに、デジタル画像にまつわる様々なお話を掲載させていただきます。
 
 第1回目は「デジタル画像データの品質について」と言うテーマでお話をさせていただきます。

(2)資料デジタル化の歴史
 我が国のデジタルアーカイブの歴史はそれほど古いわけではありません。 弊社では1999年にデジタルアーカイブを専門事業とするアーカイブサポートセンターを立ち上げましたが、当時はお客様にデジタルアーカイブの言葉の意味からご説明しなければならないほど認知度が低い状況で、かなりニッチな世界でした。また、当時は「文化財を銀塩フィルムではなく、デジタルカメラで撮影するとは甚だ不見識である」等のお叱りを頂戴したりしたこともありました。あれから15年あまりが経過し、今では一般の方でもデジタルアーカイブと言う言葉の意味は共通して理解できるものとなり、また、銀塩フィルムの衰退やデジタル機器の高性能化が促進されたとは言え、今日では文化財をデジタルカメラやスキャナーを用いてボーンデジタルデータとして取り込むのが当たり前となっていることを考えると、まさに隔世の感があります。
 基盤技術の歴史を振り返ってみても、画像の標準フォーマットであるTIFFが開発されたのが1986年、JPEGがISOに出されたのは1994年、IIJが商用のインターネットサービスプロバイダーを始めたのが1992年、一般家庭で現在の様にPCで画像を扱える様になったのは1995年のWindows95以降ですから、わずか20年あまりの非常に歴史の浅い技術と言えます。

(3)資料デジタル化の目的
 私たちの企業活動における日常の業務でも紙の資料は徐々に減り、以前は紙の資料で各部署に回覧されていたような業務通知等も、最初からデジタル化されているPDF等のデータがメールに添付されて送られてきたり、ポータルサイトからダウンロードしたりするようなことが多くなっています。
 また、企業史にかかわるような資料を扱う部署の皆様の間でも、これまでのように原資料を扱うだけではなく、それらをデジタル化して利活用する機会が増えているのではないでしょうか。企業が所蔵する貴重な資料のデジタル化を実施するのは、おおむね以下のような理由が挙げられると思います。
 
 @ 資料の経年劣化による長期保存への心配
 A 大量の資料をデータベースで検索することによる利活用の促進
 B 収納コストの低減
 C デジタル社会への対応
 
 他にも様々な理由があると思われますが、いずれにしても資料デジタル化への内的・外的なニーズはますます高まってきていると言えます。また、企業の皆様がデジタル化を検討される際の重要な要素に「どのくらいの費用がかかるか」と言うことが挙げられると思います。資料がどのくらいあるのか、資料がどのくらい重要であるのか、何年くらいかけてデジタル化するのか、デジタル化を内製するのか、外部の業者に委託するのか、どのような品質でデジタル化するのか等の要素により、費用は異なりますが、当然のことながら、デジタル化された画像データの品質も異なります。

(4)画像データの品質
 それでは、画像データの品質をどのように評価すれば良いのでしょうか。資料をデジタルカメラで撮影したり、スキャニングしたりする場合に「入力解像度」という目安があります。確かに、そもそも入力解像度が不足していれば、必要な情報を解像することができません。しかしながら、ここで誤解の無いように気をつけなくてはならないのは、入力解像度は決して「品質を担保する数値」ではなく、あくまでも最低限必要な指標に過ぎないということです。なぜなら、同じ入力解像度でデジタル化した画像データであっても、どの様なイメージセンサーで、どのような手法によってその画像データが作成されたかによって実解像度は異なり、画像の品質は大きく異なるからです。
スキャニングやデジタルカメラの撮影により作成した画像データの品質を考えるにあたり、デジタル画像の構成要素を考えてみましょう。
 
 デジタル画像の構成要素は、おおよそ以下の三つに集約されると思われます。
 
 @ データ形式(ファイルフォーマット)
 なるべく多くの利用者が使用しているものが安全です。また、データ構造が単純であるほど将来的にエミュレーションやコンバートが容易であると考えられます。現在では、最も利用度が高く、圧縮等による劣化のない非圧縮TIFF形式が適当であると思われます。
 A 色空間(画像が最下段に表示されています)
 一般的なRGB画像データで使用される色空間は、使用目的に応じて選択すればよいのですが、重要なのは、一度狭い色空間にマッピングしたデータは、再度広い色空間にマッピ ングしても元には戻らないということです。現状でのデジタルデータ利用の大半がsRGB 対応モニターでの鑑賞であるとすれば、sRGB色空間でほとんどの用途には充分と言うこ ともできます。しかしながら、人間の認識する色空間や、印刷標準であるジャパンカラ ー2001の色空間はsRGBの色空間よりも広いので、少なくとも絵画資料や高精度印刷を目 的としたデジタル画像データではAdobe RGBの色空間が望ましいと言えます。
 B 細部の表現力(分解能力を担保したデータ容量、解像度、bit深度)
 データサイズと解像度は必ずしも比例するものではありません。デジタル画像の解像 力、色調の再現性や階調の再現性に影響を与える要素は、

 ・画像データの縦横の画素数
 ・レンズの分解性能
 ・フォーカスの精度
 ・光源の性能
 ・CCDとその周辺回路の性能

等が考えられます。

 上記で示した@A以外の要素を定量的に評価する事は極めて困難で、容易に評価出来るような適切なターゲットを見かける事はありません。このことが「デジタル画像データの品質=解像度・データ容量」の誤解を生み、評価が困難な事にもつながっています。今後、爆発的に増加する画像データの品質を、定量的・客観的に評価するような組織ができるべきだと思います。つまり、食品であればJASがその品質を規格化するように、画像データについてもその品質を「特級」、「上級」、「標準」等と規格化できれば良いと思っています。

(5)おわりに
 僅か15年足らずの間に、デジタルアーカイブの裾野は大きく広がり、日々、様々な品質の画像データが大量に作製される時代となりました。タブレットやスマートフォン等の新しい情報ツールが出現し、さらにSNSやツイッター等のコミュニュケーションが普及した今日では、国政選挙の行方さえも左右しかねない、まさに情報の爆発と言える時代を迎えています。
 企業の皆様が資料のデジタル化を検討する場合には、「何を目的にデジタル化するか」と言う目的指向型のデジタルアーカイブを念頭に、必要にして充分なデジタル化を行っていくことが重要であると思います。また、資料のデジタル化について様々なケースで適切な判断を下すことが出来るように、外部の専門家をパートナーとして活用することも有効な手段ではないかと思います。
                                      以上

「資料管理の情報」へのご質問、ご要望は研修部会の専用メールへお寄せください。
kenshu@baa.gr.jp 

「企業史資料のデジタル化に向けて」―その取り組みと活用―

 4月26日に中央大学駿河台記念館に於いて研修部会担当の上記セミナーが開催されました。このセミナーの詳細は企業史料協議会/ホームページの「活動情報」>「報告」>「協議会主催」>「研究会」でご覧いただけます。
 61名が参加され21名の方からアンケートの回答をいただきました。全体によかったというご意見が多かったのですが、抜粋させていただき、重点的にご提案ないしご希望を掲載いたします。

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○ デジタルの事例を聞きながら皮肉にも原物保存の大切さを再認識した。
○ デジタル化は各社各様でも基礎のマスターデータ整理の大切さが改めて判った。
○ 個別事例を重ねることで普遍に到達する、これも意義がある。
○ 個別事例をもっと沢山知りたい。
○ デジタル関連のテーマは定期的に。
○ 業務、実務に特化した内容が欲しかった。
○ デジタル化して保存することを検討する時、システムについて様々なことを考えなければいけないことが判った。

 以下は今後のセミナーに於いて取り上げて欲しいテーマです。

○ 社史編纂の手法について聞きたい。
○ このテーマで受講者参加型のセミナーを希望する。
○ 映画フィルムのビネガー・シンドロームの対応策。
○ 映像(映画、ビデオ)、画像(フィルム、プリント)、音声情報の原物保存対策。 
○ モノ資料に於けるアーカイブズを取り上げて欲しい。
○ 写真資料デジタル化とデータベースの構築について。
○ ボーンデジタル資料の収集・整理・保存について。
○ 資料収集について自動的に収集できるシステムを構築した事例。どう展開し、定着されたかを聞いてみたい。
○ 資料の有用性について社内への周知に関連する取り組みについて。
○ 多くのグループ企業を抱える機関のアーカイブズ。
○ 現用と非現用のアーカイブズが繋がっている仕組みが構築されている事例。
○ 企業内デジタル情報の保存体制をめぐり、制度、技術、費用対効果などについての意見交換の研究会開催。

                                                                     以上 

「情報の科学と技術」Vol.62(2012),No.10に掲載された論文がオープンアクセスになりました。抄録とキーワードを掲載いたします。

抄録:
組織アーカイブズとしてのビジネス(企業)アーカイブズは「多様な価値を持つ経営資産」である。現在国内外では、組織内アーカイブズの価値を高め、それを通じた親組織の経営の質の向上に寄与するアーカイブズの活用が進められつつある。一方、記録管理(レコードマネジメント)とアーカイブズを結び付けるレコードキーピングの未確立、組織内アーカイブズへのアクセスに関する相反する考え方の存在、アーカイブズ理念とそれに連動する評価選別に関する考え方の未整理、アーカイブズ担当者(アーキビスト)が業務に精通し付加価値を生み出すための教育研修のあり方、海外現地法人のアーカイブズ管理の困難さ、といった課題が存在している。

キーワード:
ビジネスアーカイブズ、企業アーカイブズ、付加価値、アクセス、レコードキーピング、レコードマネジメント、記録管理、アーキビスト、評価選別、社史

全文は下記からご覧下さい。
 

質問者:キッコーマン株式会社国際食文化研究センター 舩田一恵
回答者:紙本・写真修復家 白岩洋子

質問:
 写真が水に浸かり変色してしまった場合の処置について。
工場の設備写真がポケットアルバムに収納されていますが、アルバムの半分くらいが水に浸かり、乾いて黒黴が生えてしまいました。カラー写真の色が変わってしまったものを修復することは出来るでしょうか?とりあえず、刷毛で黴と塵を払い、アルバムの未使用のポケットに入れております。

回答:
 水損写真の原因としては、洪水、津波、消化の際の水濡れなどがあげられますが、特に写真において致命的なダメージのひとつは水損後のカビの繁殖による被害です。写真に使用されているゼラチンは親水性があるため、水分を吸収した状態が続くと膨潤、溶解します。また、そこにカビや菌類が発生しやすくなり、そのまま放置すると画像の破壊やインクや染料にじみが起き、元に戻すことが出来なくなります。

 ご質問にある写真の修復可能な処置に関しては、
1)カビが進行、再発生する可能性もあるため、まず、全ての写真を複写します。
2)カラー写真の色が変わってしまっていたり、色が溶けてしまっている部分はゼラチン色素層が溶解してしまったため、残念ながら修復できません。
3)まだ汚れが残っている部分に関しては、色が溶解してしまっている部分を避け、水と綿棒で部分的に拭き取って下さい。
4)ポケットアルバムは未使用のポケットに入れるのではなく、新しいものを使用して下さい。

 今回のようにアルバムが水に濡れてしまった場合は、ポケットの中に水分が溜まってしまい、そのままではすぐには乾きません。出来るだけ早くアルバムから写真を取り出し、乾燥させることが重要です。もし浸かっていた水が汚水であれば、一度きれいな水で写真を洗ってから乾かします。なお、一般的によく見られるプリントの印画紙は主に二種類あります。1970年代より前のカラー写真、白黒写真はバライタ紙という印画紙が使用されており、一度水につけてから乾かすと、カーリングしてしまいます。その場合は少し表面を乾燥させた後、シリコンシートや不織布を写真の表面にのせ、吸取紙やフェルトのような水分を吸収するものに挟んで乾かします。画面がデリケートなので注意が必要です。現在も使用されている1970年代以降のカラープリントはRC紙というポリエチレン層があるもので、そのまま乾燥させてもカーリングが起こりません。

 以上の処置は被害が比較的小さく、作業が出来る時間とマンパワーがある場合ですが、そうでない場合はまずそのまま乾燥させるか、余裕があれば水で洗浄してからとりあえず乾燥させます。カビを防ぐために相対湿度65%を超えない場所で保管します。また設備があれば専門家の立会いのもと、濡れたまま写真を冷凍し、後から作業を行うという方法もあります。

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研修部会では資料の活用や保存などに関する管理の問題で、ご質問やご意見をお待ちしています。(掲載する場合の匿名は可とします)
また、ビジネスアーキビスト研修講座に関するご意見あるいは社史に関するセミナー、博物館に関するセミナーについても、ご意見、ご要望をお待ちしています。

kenshu@baa.gr.jpが専用メールアドレスです。 

質問者:キッコーマン株式会社国際食文化研究センター 舩田一恵
回答者:公益財団法人日本写真家協会専務理事 松本徳彦

質問:
 写真は何枚も焼付けされ、多くの人の手に渡されます。著作権は50年で切れますが所有権は紙焼きを持っている人は誰でも持つものなのでしょうか?具体的には、弊社所有の昭和初期の写真ですが、同じものを野田(キッコーマンの所在地)の市民が市役所のアルバムに貸し出し、写真提供者として名前が出されています。この場合、この写真を使おうとすれば、この提供者の許諾を得れば使えることになりますが、弊社はこの問題では静観していなければいけないのでしょうか?昭和初期の紙焼き写真の所有権の考え方は難しいように思います。著作権と所有権の関係など、ポイントはどんなところにあるのでしょうか?

回答:
 お尋ねの自社所有の写真は昭和初期のものであれば、権利の保護期間は切れている可能性が高いと思われます。何らかの理由で同じ写真を他人が所有し、その入手方法が正当であれば、その他人には所有権があります。著作権のないものが所有権のある他人に対して使うなと法律上は言えません。
 ただ、保護期間が満了した著作物は広く国民に開放するという考え方もありますので、他人が使うことを認めた上で、提供者と言うコトバについては話し合いで決めるのがよいと思います。
 因みに、著作権と所有権の法律上の違いは以下のとおりです。
著作権の著作物は情報という無体物であり、所有権が対象としているのは物であり、有体物です。したがって原則として、著作権と所有権は無関係に並存します。

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シンポジウム「デジタルはビジネスアーカイブズの未来を拓くか」のアンケートでいただいたコメントを掲載します。
特別講演、基調講演、シンポジウム、それぞれ42人の方の回答(計126件)から、18件を抜粋させていただきました。基準は辛口のご意見、提案ないしご希望、ポジティブな感想などで、バランスを考慮しました。(広報部会)

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  特別講演 渋沢雅英氏

○ 正にArchivesそのものの意味を、伝記を紹介していただく中で感じとることができ、素晴らしい内容でした。
○ かって作成に関わった『渋沢栄一伝記資料』についてのご講演を雅英理事長から伺うことができましたことは、望外の喜びです。あのDBで、晩餐会、御餐会を調べると、メニューや演奏曲がわかって面白いだろうなと、下世話な使い方を想像しますが、実は、経済は統計資料として大変貴重であることを思い出しておりました。理事長のご健勝と益々のご活躍をお祈り申し上げます。
○ 言葉での説明が多かったため、聞き取れないところが一部あった。事前に渋沢栄一伝記について詳しい説明、資料配布等があると良かったように思います。
○ 貴重な歴史のエピソードを聞くことが出来ました。デジタル検索のシステムや効能についての説明が欲しかった。
○ 渋沢栄一の伝記資料をまとめ上げるまでのプロセスを紹介頂いたが、これすらも伝記の中で、「側面史」として、雑記や著者の日記などから判るものだと思うと、渋沢氏の苦労と伝記の重要性を感じた。
○ 評価は後世の人に任せて、今は残せるものは何でも残す、の考え方は感動しました。

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  基調講演 吉見俊哉氏

○ 非常に興味深い内容でした。上層部への働きかけに役立つ内容で、勉強になりました。
○ すばらしいに尽きる。社会全体の視点から体系的にアーカイブの問題や役割をお話いただき、目からうろこが落ちる想いで聞いておりました。
○ 吉見先生の未来を見すえた重要な分析と提言に感心いたしました。特に文化のフローから創造的リサイクルは、日本の新たな産業になりえるものと思いました。
○ 先生もおっしゃる、まずは人材(アーキビスト)、そして法的整備(権利処理)を、国はバックアップして欲しい。
○ 吉見先生は素晴らしい。非常に面白く、ためになりました。われわれは本当に大変な時代にいるようですね。マクルーハンの言うことは正しかったのですね。
○ デジタル化した資料については、お話のとおり構造化されるべきであり、それは図書館における管理に近いと感じます。一方でビジネスアーカイブズにおいて現物は情報の入った”器”以上に、それ自体が資料的に価値を持っており、それは美術館・博物館における資料の考え方に近いのではないか、と思います。その紐付けというか、システム化をどのようにしたら良いのか、情報がありましたらお聞かせいただければ幸いです。

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  シンポジウム

○ デジタルの危うさをもう少し追求できると良かった。実際、気づいておられない方や企業も多いのではないか。
○ 「アーカイブズは、壁をこえる力を持つ」という吉見先生のまとめのお言葉、同感です。だからこそ公開も必要だし、何をアーカイブして、何を公開するのか、というところにその主体の”アイデンティティ”が現れるように思います。その、公開されたアーカイブによって、主体となる組織は”非自己との切り結び”を果たすのではないでしょうか、などと思いました。
○ 吉見先生の課題ポイント整理の見事さに感服いたしました。但し、記録管理、アーカイブズ理論が企業アーカイブズの現場に十分浸透していない状況も窺われ、BAAの取り組むべき課題になるかと考えます(BA講座以外の場で)。
○ 有意義な話の数々、勉強になりました。地味な展開になりそうなテーマを質疑応答で活気ある興味深い瞬間に変化させた吉見先生の見事な司会に感服。
○ スピーカーの人選が素晴らしかったです。アーカイブズの目的とグローバル化の二つに絞ってくださったのがちょうどよかった。法人文書の集約については、不足であり、かみあっていなかった。
○ 企業のアーカイブズについて、正史以外の裏面の歴史が必要だと言う意見は、大変参考になりました。広報は企業が苦しい時に、真先に予算が削られる部門だと思うので役に立つように発信していくというのは、とても素晴らしいことだと思いました。

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質問者:アサヒグループホールディングス株式会社 荒井光弘
回答者:日本図書館協会資料保存委員会委員 児玉優子

質問:
AV資料(音声テープ、映像テープ)の保管に関しての質問です。弊社では現在AV資料の電子化(パソコンの外付けハードディスクへの保管)を行っていますが、オリジナルのAV資料(テープ類)については場所の関係で廃棄しようかとも考えております。紙資料ではオリジナルが重要、とのことですが、AV資料ではどのように考えたらいいのでしょうか?

回答:
視聴覚資料のうち、映画フィルムは適切な保存環境で100年以上の保存の実績があり、たとえデジタルで制作され、デジタルで上映された作品でも、「保存はフィルムで」が共通認識となっています。しかし、録音テープやビデオテープは、フィルムほど長い寿命は期待できません。フォーマット変換後もオリジナルは廃棄しない[注]のが原則ですが、VHSのように画質の悪いテープの場合でも保存すべきかどうかは、2009年のAMIA (Association of Moving Image Archivists)会議のセッション“Can You Play Your Old Videotapes?”でも議論が分かれるようでした。
一方、フォーマット変換で作成されたデジタルファイルも、長期保存についての信頼性は高くありません。
オリジナルを残すことには、以下のような意義があるでしょう。

(1)記録作成のコンテクストを示すものとして
そのドキュメントは元々どんな媒体にどんな形で記録されていたのか、オリジナルには記録作成のコンテクストが内包されています。レーベルや容器にメモされている情報が重要なことは言うまでもありませんが、例えば撮影時期が不明でも、テープの型番やデザインから推測できるかもしれません。メモの筆跡も、撮影者を推測するヒントになるかもしれません。録音テープ・ビデオテープに記録されているコンテンツ(音声と画像)だけをデジタル変換してオリジナルを廃棄してしまったら、これらの手がかりも失われます。

(2)再デジタル化のマスターとして
後日、よりよい音質・画質で再度デジタル変換できる可能性が出てきたときのマスターとして活用できる可能性があります。仮に現在最高の音質・画質でデジタル化しても、5年後、10年後にはもっと高音質・高画質が標準的になるかもしれません。しかし、デジタル化と同時にオリジナルを廃棄すると、手元に残ったデジタルファイルを元に、それ以上の音質・画質に再変換することは不可能です。
 フランスに、国立視聴覚研究所(INA)というテレビ・ラジオ番組のアーカイブ機関があります。膨大なコレクションをいち早く全てデジタル化したことで知られ、『世界最大デジタル映像アーカイブ INA』という図書でも紹介されました。果たしてデジタル化が完了して、オリジナルのテープはどうなったのだろうと疑問に思っていましたが、2008年11月にINAのジャン=リュック・ヴェルネ氏がシンポジウムのために来日された際にうかがうと、デジタル化した後も、将来よりよい変換方法が考案されるかもしれないので、オリジナルのテープは全て保存している、との回答でした。

(3)バックアップとして 
デジタルファイルは一定のエラー率を超えると突然再生不能になることがありますが、アナログの録音テープ、ビデオテープの場合は音質・画質の劣化は徐々に進行します。また、物理的に破損してもデータ喪失は部分的で済む場合もあります。デジタルファイルとは異なる特性を持つことから、バックアップとしての価値もあると思います。

 以上、3つの観点から考えてみました。紙資料でオリジナルの保存が重要なのと同様に、視聴覚資料もオリジナルの保存に意義があります。しかし、実社会で保存を正当化して実行することは、必ずしも簡単ではありません。視聴覚メディアの脆弱性、再生技術に依存する点などを考えると、保存の正当化へのハードルは紙資料以上に高いと思われます。資料の重要性、希少性、保存スペース、劣化の度合い、再生機器の利用可能性、維持管理費などを検討して、保存と廃棄それぞれのメリット・デメリットを見極め、総合的に判断せざるを得ないでしょう。
 なお、本稿は日本図書館協会資料保存委員会の見解を述べたものではなく、筆者個人の意見を述べたものです。
注:Association of Moving Image Archivistsの“Videotape Preservation Fact Sheets” p. [12] (http://www.amianet.org/resources/guides/fact_sheets.pdf) や、Association for Recorded Sound Collectionsの技術委員会による“Preservation of Archival Sound Recordings. Version 1” p. 2 (http://www.arsc-audio.org/pdf/ARSCTC_preservation.pdf) などで言及されています。


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 研修部会では資料の活用や保存などに関わる管理の問題で、ご質問やご意見をお待ちしております(掲載する場合の匿名は可とします)。
 また、ビジネスアーキビスト研修講座に関するご意見、あるいは社史に関するセミナー、博物館に関するセミナーについても、ご意見、ご要望をお待ちしています。

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第17回ビジネスアーキビスト研修講座では受講者にアンケートをお願いしご回答をいただきました。
集計の結果をご報告いたします。

全8日間(全12講座)の延べ受講者数           200名
1人1日1件とした全回答数                   93件
上記回答率                            47%

講座ごとの総回答数                     135件
上記の回答数に対する回答項目ごとの割合
   
講師  とても良い     良い       普通       あまり良くない
    79件(59%)   34(25%)  14(10%)    2(1%)

講義  わかりやすい             普通       わかりにくい
   102件(76%)    −       19(14%)    0           

内容  充実している             普通       不充分
    91件(67%)    −       28(21%)    2(1%)

この他に自由にコメントをいただきました。
この中から今後の講座へのご要望など、建設的なご意見を抜粋して掲載いたします。

*講師の間で内容を共有すると、重複なく統一性がとれた講座になるのではないかと思います。
*アーカイブズ規定の事例、認定、記憶・インタビュー・証言などについてのアーカイブズの考え方。
*社史や企業資料館についての定例の講座開催。
*もっと深めたいと思ったときに参考になる文献(書籍・論文)やネット情報について。
*企業の資料室担当者によるアーカイブズの事例。
*企業資料館・博物館のリニューアルについての参考事例・企画展示の実際について。
*評価/選別の正しい方法は一つではないと思うので、いろいろな事例を聞きたい。
*参加者同士の情報交換に興味がある。
*ボーンデジタルの管理/保存について、デジタル化した資料の原本とデータの関連付けなど実務の詳細。
*紙資料以外の物資料についての民俗学あるいは考古学研究者の話を聞きたい。
*講義をふまえて、さらに勉強したいと思ったときの初級者レベルの書籍の紹介。
*知的財産を積極的に活用するMOT(Management of Technology)の専門家の話。
*デジタル・アーカイブの今後の展望。

(担当:研修部会・BA講座担当者/事務局)



 

11月22日応用コースの5日目が終了しました。内容の速報をお届けします。

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 応用コース7「事例研究」東芝科学館の紹介と、同館でのアーカイブ活動の現状のご紹介でした。企業博物館としても古い歴史を誇る東芝科学館はそのまま日本の文明の歩みを感じさせるものでした。実務担当の方のお話の館内での体系だった整理と実務の紹介は参考になりました。また、このような部門に携わる方のモチベーションを率直に語られており、他の企業博物館の方々には共感する面があったのではないでしょうか。
 応用コース8「資料管理の現場から」。東大経済学部資料室の紹介と見学をさせていただきました。資料室に新規に入ってくる資料の受け入れから実務の流れを紹介いただき、よく整理された収蔵庫は素晴らしいものです。一般企業がこの通りにという訳にはいかないものの、資料室の環境作りや扱いに関して得ることの多いことであると思いました。

 全講座が終了し、企業史資料の重要度を改めて考えさせられました。企業の培ってきた歴史をふり返る時、単にその歩みを知るだけでなく、貴重な資産としての価値を見出し、活用していくことがこれからますます必要になってきている時代が来ていると痛感しました。そのために社員はこの資産の必要性とそれに携わる部門への理解を深めることがとても大切な第一歩であることも感じたことでした。

(文責:凸版印刷株式会社 檜垣茂)
 

11月22日に8日間全講座が終了しました。
全課程を受講いただいた11名の方に修了証を発行しましたので、お名前を掲載してご報告いたします。

アサヒグループホールディングス(株)   荒井光弘様
キッコーマン(株)                大坂葉子様
(株)佼成出版社                今野恭子様
(株)佼成出版社                渋谷恵治様
清水建設(株)                 相原玲奈様
創価学会                    柴本達希様
大日本印刷(株)                山本博子様
凸版印刷(株)                 檜垣茂様
トヨタ自動車(株)                今堀里佳様
日本レコードマネジメント(株)        山田敏史様
雪印メグミルク(株)              岩倉秀雄様

どうも有り難うございました。
(研修部会/BA講座担当・事務局) 

11月15日応用コースの4日目が終了しました。内容の速報をお届けします。

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 応用コース6「著作権について」伊藤弁護士のお話でした。自分も含めてこの講座の出席者の大部分が関心のあるテーマではないでしょうか。講師のお話は広範な内容で、専門的な言い回しなど都度丁寧にお話をしていただきました。全体を通して著作権に関するおおまかな内容と、その必要性が整理できたのではないかと思います。ただ、自分たちの仕事の中では多くのケースで自分では判断できないことですから、なにかあればいちいち専門家に確認するのが現状です。我々としては知りませんでしたということのないように、この分野での注意点や知識を身につける大切さを思いました。
 重要なテーマなので、具体例を挙げてその中で、ここではこのような権利にひっかかったと説明をいただくと、よりわかりやすかったのではないでしょうか。

(文責:凸版印刷株式会社 檜垣茂)

 

11月8日応用コースの3日目が終了しました。内容の速報をお届けします。

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 本日一コマ目「資料の劣化要因と保存対策」、(株)資料保存器材の島田氏の講義であった。主に紙資料に与える劣化要因には用紙本来の材料によるものから保存されていた環境はもちろん、インクによっても影響が大きいことがわかった。また、桐箱は安全という認識があったが、最近の木箱の製法によっては収められた資料に影響を及ぼすとのことであった。史資料の保存対策として治すことよりも防ぐことがいま求められているとのことであり、史資料劣化問題を細かく理解できたと思います。

 本日二コマ目の企業アーカイブズでの資料保存と資料管理のテーマで佐野千絵先生がお話をされた。先生の分野は考えると史資料の保存対策といっても非常に広い範囲で多岐にわたっていることを感じた。文化財の移動、保存に伴う環境対策、自然災害に備える対応などなど。講義は、専門的な内容に陥らず我々にも理解できるような軽妙な内容でよく理解できました。さらに企業アーカイブズに関して言及され、史資料の資産価値を考えてそれに即した保存の仕方と費用をかけることの必要性を述べられていた。東京大学の吉見教授がアーカイブズの日で講演された内容にも、これまでの知識、文化をリサイクルし、その中から新しい価値を見出していき、その仕組み作りと制度化が社会にとって大切なことと語られていた。佐野先生の資料保存の観点からも費用対効果の面から同じことをおっしゃっておられたのが興味深いことでした。

(文責:凸版印刷株式会社 檜垣茂)






 

 私たち歴史資料ネットワーク(略称:史料ネット)は、1955年1月の阪神・淡路大震災に際して全国の歴史学会の連合体として結成された、被災した歴史資料や文化財の救出・保全活動を行うボランティア団体です。私たちが主に救出・保全の対象とする歴史資料・文化財は、民間所在かつ未指定の歴史資料・文化財です(私たちの活動の概要については、拙稿「被災資料を救う:阪神・淡路大震災からの歴史資料ネットワークの活動」『カレントアウェアネス』No308、2011年6月をご覧ください)。
      http://www.current.ndl.go.jp/ca1743
 2012年10月現在、私たちのような活動をするネットワークは全国で22団体が存在しており、日常的な文化財防災のためのネットワーク構築を行うとともに、災害時における歴史資料・文化財の救出・保全活動の任にあたっています。

 災害時にはまず人命の救助が最優先されることは当然のことですが、その後、歴史資料や文化財等の救出活動がはじまる段階に至っても、日常的に行政の保護の対象外にある民間所在・未指定の文化財については、対応がどうしても後回しにされることがあります。
 こうした状況に対して、東日本大震災では文化庁が主導する「被災文化財等救援委員会」が阪神・淡路大震災に続いて結成され、同委員会による文化財レスキュウ事業が行われています。同事業では指定文化財などの狭義の文化財のみならず、民間所在・未指定の文化財、また現用公文書や図書資料といったような、より広い範囲を対象とした資料救済活動が取り組まれております。しかしながら被害規模が膨大かつ広範囲にわたることもあり、震災発生から1年半以上が経過した現在においても、未だ被災資料の救済活動が行われているのが現状です。
 私たちのような活動が必要とされるのは、前述のように民間所在・未指定の歴史資料や文化財が、日常的な文化財保護行政の範疇を超えるものとして存在しており、災害時にそれらを救出するシステムが確立していないという現状があるためです。また本来、日常的には文化財としてみなされない現用公文書や図書資料などについても災害時に救済するシステムが存在しないため、文化財レスキュー事業のような臨時的な枠組みによって対処せざるを得ないという現状もあります。
 同様な課題は、各企業が所持している企業資料についても共通するものだと考えます。今回の大震災に際しても多くの企業が被災し、被災した企業の資料も多大なダメージを受けましたが、企業資料の救済については、公文書や図書資料といった「公共財産」としてみなせる資料類とはまた違った難しい課題が存在しています。そのことについて、東日本大震災発生直後に私たちが経験したことを事例に、少しお話したいと思います。

 大震災発生から2ヶ月弱が経過した2011年5月はじめ、私たちのもとへ被災地のとある企業(A社)から電話でのご連絡をいただきました。お話しによると、いくつかの店舗が津波被害を受け、企業資料が水損してしまったとのことで、水損した資料をどうしたらよいか、というご相談でした。大震災後、いくつかのメディアで私たちの活動が報道されていたこともあって、こうした相談は既にいくつかいただいておりましたが、企業の方よりご相談を受けたのはこれが初めてでした。
 一旦お話しをお預かりして、当該被災地の資料ネットへ連絡をいたしましたが、そちらからは他の資料で手一杯で手が回らないとの回答を得ましたので、あらためてこちらからA社にご連絡をし、簡易的な応急処置法(送風乾燥など)をお伝えするとともに、水損資料が大量にわたる場合、こちらから人員を派遣してお手伝いが可能である旨をお伝えしました。A社のご担当者は、資料に機密情報や個人情報が含まれることから、一旦検討させてほしい、とのことでしたので、その日はその場で電話を切りました。後日、改めてご連絡さし上げたところ、「もう大丈夫です」とのご返事をいただいたということです。その後どのように処置されたのかは、こちらでは把握できておりません。

 この案件からは、災害時といえども機密情報や個人情報を外部に漏らすわけにはいかない企業資料を救出する際の難しさを感じました。企業にとって顧客の個人情報を保護することや、また事業遂行のための機密情報を外部、特に私たちのような民間ボランティア団体に委ねることが難しいという現状があることは理解できます。同様に資料の機密性ということについては、現用公文書も同様の課題を抱えていると思いますが、東日本大震災においては、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)が中心となり、文化財レスキュー事業のスキームのもとで全国の公文書管理担当職員等が救出活動を担いました。一方企業資料については、現状では個々の企業それぞれが対処する以外の方法がなく、特に中小企業などについては本来修復可能な資料までも廃棄せざるを得ないのが現状であると考えます。

 今、日本列島は首都直下型地震も含めて、大きな地震災害が発生する可能性が高まっている現状にあります。また列島各地では毎年のように大規模な豪雨水害が発生している現状を考えますと、いつどこで大きな災害被害に遭うかわからない現状にあるといえます。
 災害は企業規模の大小に関わらず被害をもたらすものです。そのため個々の企業が日常から企業資料のリスクヘッジを行っておくことはもちろん必要なことですが、同時に、企業資料を取り扱う専門家がネットワークを構築し、いざという時の資料救済の枠組みを議論し、構築しておくことが必要なのではないかと考えています。

               歴史資料ネットワーク事務局長 川内淳史
                     http://siryo-net.jp



 

11月1日応用コースの2日目が終了しました。内容の速報をお届けします。

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 1コマ目は株式会社堀内カラーの肥田康様の「企業史料のデジタル化/A〜Zまで」のお話であった。

 企業のアーカイブズ部署は今後、好むと好まざるとにかかわらず、デジタル化の波に対応していかなければならない。現在および特に将来の課題について、幅広く取上げていただいた。なかでもデジタルデータの多様な活用の仕方では、データベースで感心し、データ化の際に目的によって考え方を変えるという方法論に納得した。
 一つの見かたではあるが、原資料の廃棄の問題、文書のライフサイクルの問題を挙げられた。ボーンデジタルが主流になる将来、こうあるべきという議論ではなくて企業ごとに考え方が分かれてくるであろうし、分かれてきても仕方がないような気がしてきた。
 いずれにしても、企業のアーカイブズ部署のデジタルあるいはデジタル化の問題は常に変化していて、幅も広ければ奥も深い。とても1コマでまとまる話ではない。企業史料協議会の今後の企画に期待したい。


2コマ目は森永製菓株式会社の野秋誠治様による、「企業の資料室におけるデジタル化」の事例のお話であった。
 約10年、資料のデジタル化に取り組まれてから様々なトライをされて、今日までの経験から得た成果、課題が生の形でお聞きできた。
 2003年の時点で、将来の課題を考え、例えば、社内サポートの例として製品別テーマ別の小史の発刊を計画、イントラネットの活用を考えたこと、広報担当業務に積極的にサポートしたこと、それから3〜5年後にはもっと積極的に資料を受け入れようとしたこと、そして現在は技術環境の変化にどう対応していくかを考えながら、常に前向きに志向されておられる姿勢が素晴らしいと思った。
 経験から、テキストデータを付加する際の細かな問題、著作権などの社内の制約の問題などを学び、努力しておられる。
 最後に、デジタル化とは資料の「編集」ではないかと結ばれた。とても参考になる事例のお話であった。

(文責:株式会社コスモスインターナショナル 岡田泰吉)


 応用コース3、「企業の資料室におけるデジタル化」。森永製菓の史料室で長年アーカイブに取り組んで来られた野秋氏のお話でした。野秋氏が史料室に着任からいままで、デジタル化を含め、その中で考えたこと、実施したことを実体験を通してお話されており、企業の担当者として同じ目線で考えることの出来る判りやすい内容であったと思います。
 史料室の機能面から考えて、優先すべき課題から手がけられておられるようでした。デジタル化は「調べるスピードがアップした」、「仕事は増える」、「史料は減らない」と述べられておられました。そしてこれからデジタルの技術面で世の中の趨勢もよく注視していく必要があるし、勉強をしていかなければならないと。いい面もあるがそれに伴って我々も考えなければならない課題も数多くあるという事だと思います。さらに当然ですが、どの企業にとってもアーカイブに関する費用面の社内オーソライズは大きなハードルとして横たわっているように思います。他の企業がどのような課題を抱え、取り組んでいるかとても参考になる講義であったと思います。

(文責:凸版印刷株式会社 檜垣茂)


 

当協議会会員の松崎裕子氏が寄稿されました。ぜひご覧下さい。

「情報の科学と技術」 Vol. 62 (2012), No.10

特集=「アーカイブズの現在」

<目次>
特集 : 「アーカイブズの現在」の編集にあたって………407
総論 : アーカイブズをいかに位置づけるか:日本の現状からのレビュー古賀 崇………408
利用者の視点からみた米国国立公文書館〜丸裸にされた軍事関係文書を追い求めて〜 三輪 宗弘………415
資産としてのビジネスアーカイブズ: 付加価値を生み出す活用の必要性と課題 松崎 裕子………422
公文書管理法施行と国立公文書館の活動 高山 正也………428
国立国会図書館憲政資料室のいま 藤田 壮介………434
資生堂企業資料館における企業アーカイブズの戦略的取り組み 西川 康男………440
プロダクトレビュー:反応・化合物データベースReaxysの新機能 佐川亜矢子,海附 玄龍………445
投稿:「東日本大震災デジタルアーカイブ」推進者Dr.Andrew Gordonインタビュー 時実 象一………450
見学会報告:奈良国立博物館仏教美術資料研究センター 見学会報告〜仏教美術の歴史と資料を見る〜 西日本委員会………452
連載コラム:表記の標準化(8) 非ラテン文字表記のラテン文字化 太田 泰弘………454
書評・新刊紹介………455
INFOSTA Forum (262) 松岡 弘之………456
協会だより ………457
編集後記 ………458


 


 
 
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