「写真資料のデジタル化 ― 銀塩写真の保存と活用事例」 株式会社コスモスインターナショナル 岡田泰吉
1.デジタル化によって考え方の変化が起きている
写真資料の活用と保存を考えるとき、今年になってから今までにない特別な感想をもつようになった。それはデジタル化との関係です。従来の考え方、デジタル化しても元の写真(銀塩写真:注)は大切なものとしてそれまでと同じように保存していく、が変わり始めたのではないかという危惧です。紙資料の場合の原本は、その質感などを含めてデジタルデータには求められない豊かな情報を持つ、という観点からも大切にされている側面があります。
写真の場合、今までは、銀塩写真は大切なものという精神的な考え方や、デジタルデータとの再現性の差、真正性、長期保存性などの現実的な考え方が支えになって大切にされてきました。実際には、銀塩写真とデジタルデータの差が表現力という比較ではどんどん縮まっていますし、特にフィルムの場合のビネガーシンドロームによる保存の将来への不安などにより、その支えも危ういものになってきたという危惧です。
紙資料にしろ写真資料にしろ、従来のように必要に応じてデジタル化していた時代から、すぐには活用の要請がないのに先行してデジタル化する時代へと変わってきています。これが原本保存、銀塩写真保存に対する考え方を変えてしまったと思えてなりません。このことがいいのか悪いのか、時間を経て、銀塩写真の、とりわけ原板といわれるフィルムが希少価値で語られる恐ろしい時代だけは来てほしくないと願うばかりです。
しかし、この先行してデジタル化するをやらなければ、デジタルの活用が進まないのも事実です。
2.活用の素晴らしい事例
写真資料は画像単独では利用可能な資料として完結しない、付属情報を確定することが利用に際して不可欠である、と奈良女子大学の島津良子非常勤講師は「劣化する戦後写真」(岩田書院ブックレット)の中で述べられています。(12頁)
写真を管理する時の実際を考えてみましょう。活用を促進するためには検索用に小さな画像でもいいから、将来の活用が期待される全点をデジタル化する。
このステップのあと、すぐ次に進んだ事例を紹介します。
企業ではないのですが、新潟県十日町市古文書ボランティアの事例です。100年の歴史を持つ市内の写真館から約48,000点の写真の寄託を受け、全点をデジタル化し、1点1点の内容情報(時代、場所、状況など)を調査し、資料カードに記録する作業に取り組みました。その調査とは、平成22年10月から十日町市古文書ボランティアを中心に十日町市情報館と博物館が協働して行っているものです。情報館で写真展をくり返し開催し、市民からの情報を集めるという方法です。これにより100年の社会、風俗、文化、産業、教育、自然など、まさに十日町市の歴史が画像で甦りました。副産物として、市民からのさらなる写真の提供希望があるということですし、市民がこうした作業に携わること自体が写真の活用といえるのではないか。かかわった人が皆、これを「地域の宝」にしていく活動と位置づけているそうです。全点がデータベースに登録され、一部は来館者が自由に検索できるようになっていると同時に、将来はWEBでの公開も検討され、さらに全ての銀塩写真の保存対策がきちんと採られているという素晴らしいプロジェクトです。
その後、いくつかの自治体から写真整理の相談があるたびに、この事例を話します。一様にすごいな、やりたいなという話にはなっても、実現には困難が多く、実行できません。しかし、小さな規模でもいい、この方式を学んで成功する事例が次に続くことを願っています。
企業に於いても、努力することによって、後付データの収集が何らかの方法で可能ならば、そのままでは使えない多くの写真が生き返ります。トライする価値はあると思います。
(注)支持体(ガラス乾板、フィルム、印画紙など)の上に感光性の乳剤層が塗布され、露光すると乳剤層が光を記録し、現像処理によって画像が形成される(黒白画像の場合)写真方式で、最近ではデジタル写真と対比して使われることが多くなった。
以上
「資料管理の情報」へのご質問、ご要望は研修部会の専用メールへお寄せください。 kenshu@baa.gr.jp
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